大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)25501号 判決

原告 中村青志

右訴訟代理人弁護士 渡辺征二郎

同 田中史郎

被告 東京証券株式会社

右代表者代表取締役 副島忠雄

被告 林健一

被告 吉岡隆一

右三名訴訟代理人弁護士 松下照雄

同 本杉明義

同 池田秀雄

同 雨宮啓

同 宮崎拓哉

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金四〇〇六万四五二七円及びこれに対する平成九年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告東京証券株式会社(以下「被告会社」という。)と株式の現物、信用取引等を行った際に、被告会社渋谷支店(以下「渋谷支店」という。)の従業員である被告吉岡隆一(以下「被告吉岡」という。)によって過当取引に誘致されたとして、被告吉岡に対しては不法行為に基づき、被告会社に対しては使用者責任に基づき、また、渋谷支店の支店長であった被告林健一(以下「被告林」という。)に対しては代理監督者責任に基づき、それぞれ右取引により被った損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠上明らかに認められる。

1  原告は、昭和四七年に東京大学経済学部を卒業し、同五二年に同大学大学院経済学研究科博士課程を修了し、その後、東京経済大学に勤務し、同大学経営学部助教授として教鞭をとっている者である。

被告会社は、株式の売買の取次等を業とする株式会社であり、原告との取引は渋谷支店において行われ、被告吉岡は、平成五年四月から同九年三月ころまで、渋谷支店に営業課長代理として勤務し、原告の取引を担当した者であり、被告林は、渋谷支店の支店長をしていた者である。

2  原告の父中村達之助(以下「達之助」という。)は、渋谷支店において、自己名義の取引口座(以下「達之助口座」という。)を開設し証券取引を行っていたが、昭和四九年七月、原告名義の取引口座(以下「原告口座」という。)を開設し、原告口座においても取引を行っていた。

3  達之助は、平成七年七月一八日、日本医科大学附属病院に入院し、同年九月一日、死亡した。

4  原告は、平成八年四月二四日、原告口座において、株式取引を開始し、同年六月一七日、原告名義の信用取引口座(以下「本件信用取引口座」という。)を開設し、株式の信用取引を開始した。

5  平成八年四月二四日から同年九月二五日ころまでの間、原告口座において、別紙取引一覧表記載の七番から一四八番までの株式等の取引(以下「本件取引」といい、本件取引が行われた原告口座を「本件口座」という。)が行われた。

二  主要な争点

本件取引が過当取引に当たり違法といえるか。

(原告の主張)

1 本件取引が過当取引に当たり違法といえるかは、<1>取引が過当であること(過当性)、<2>口座担当者が口座を支配していること(口座支配性)、<3>口座担当者の故意、過失の各要件を満たすか否かにより判断すべきである。

2 過当性

達之助は、原告口座において、株式取引をほとんど行わず、社債、国債、投資信託等を中心とした取引を行っており、達之助から原告口座を相続した原告も、達之助と同様に投資信託等を中心とした保守的な運用を希望していたにもかかわらず、原告口座における本件取引の資金回転率は年率四九パーセント、手数料率は八パーセント、手数料化率は二五パーセントであり、各株式の保有期間も短く頻繁な回転売買が行われており、このような取引は、本件口座の目的、性格に照らし過当であり、過当性の要件を満たすものである。

3 口座支配性

原告は、本件取引以前、株式取引を行った経験が無く、本件取引当時、多忙であり具体的な投資判断をする意思も時間もなかったが、達之助と長年の付き合いのあった被告会社を信頼して、株式取引を開始することにしたところ、被告吉岡は、右のような原告の信頼と証券取引等の投資経験を全く持たない原告の母中村とみ子(以下「とみ子」という。)の無知に乗じて、とみ子に対する詐欺的な勧誘に基づき、あるいは、原告の事前の同意を得ることなく本件取引の大部分を無断で行ったものであり(但し、原告は、ほとんどの取引について事後的に同意している。)、さらに、原告の投資目的に反する仕手株や無配株などの投資銘柄が多数取引され、原告にとって必要でない信用取引や回転売買が行われており、以上からすれば、本件取引は被告吉岡により主導的に行われたものであり、口座支配性の要件を満たすものである。

4 故意・過失

被告吉岡は、手数料稼ぎを目的として、原告の利益を無謀に無視して、原告を本件取引に誘致したものであり、被告吉岡には、原告に損害が発生することについて、未必の故意、過失がある。

5 損害

本件取引によって四〇〇六万四五二七円の売買損失が発生し、原告は、右相当額の損害を受けた。

6 被告らの責任

したがって、本件取引は過当取引として違法であり、原告に対し、原告を本件取引に誘致した被告吉岡は、民法七〇九条に基づき、被告会社は、同法七一五条一項の使用者責任に基づき、被告林は、同条二項の代理監督者責任に基づき、それぞれ原告の被った右損害を賠償すべき義務を負う。

(被告の主張)

原告の資産、能力、本件口座の性格に照らせば、本件取引が過当な取引であったとはいえず、被告吉岡は、原告と直接に又は原告の代理人であるとみ子と投資に関する協議を行いながら、本件取引を行ったものであり、本件口座を支配していたということはできない。また、被告吉岡が、原告の利益を無謀に無視して、手数料稼ぎの目的を有していたということはない。

第三争点に対する判断

一  前記第二、一争いのない事実等、証拠(甲八、一一、乙一ないし三、六ないし一三六、証人中村とみ子、原告本人、被告吉岡本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件取引に至る経緯

(一) 達之助は、渋谷支店において、達之助口座において取引を行うとともに、昭和四九年七月、原告口座を開設した。

原告は、原告口座において、昭和五〇年代後半から同六〇年代はじめにかけて、毎年一〇〇万円程度の金額で割引金融債を総額一〇〇〇万円程度購入したことがあったが、これも達之助の指示によるもので、本件取引を開始するまで、原告口座における取引は、達之助の指示のもとでされていた。

(二) 達之助は、平成七年七月一八日、日本医科大学附属病院に入院した。

とみ子は、同年八月一五日ころ、原告宅において、当時の渋谷支店営業課長半田則夫(以下「半田」という。)と、達之助口座における証券等の処分について協議し、その結果、売却可能な資産はなるべく売却し、売却代金を原告口座に移動することになり、そのころ、右協議に基づき、達之介口座における証券等は売却処分された。

同年八月一八日ころ、達之助口座から証券等の売却代金である五七〇一万〇九九五円が出金され、原告口座に五〇八六万六六九三円の現金入金が行われた。その際、原告口座において、ベアボンドオープン投資信託五〇〇〇口(一口一万〇一四二円)の買付けが行われた。

達之助は、平成七年九月一日、死亡し、原告は、原告口座の資産のほか、不動産など合計約一億円の資産を相続した。

なお、達之助が開設して取引を行っていたとみ子名義の取引口座においては、達之助の死亡後は、とみ子自身が取引を行っていた。

(三) 被告吉岡は、平成五年ころから形式的には達之助や原告の営業担当者であったが、平成七年九月ころから、原告宅に竃話をかけたり、訪問したりするなどして、原告口座の実質的な担当者として活動するようになった。

被告吉岡は、平成七年九月一八日、原告が保有していた前記ベアボンドオープン投資信託が国内金利連動型の投資信託で金利低下局面では損失が発生する可能性があり、その当時金利低下の見通しがあったことから、株式組み入れ比率の高いニューステージ投資信託への乗り換えが有利であると判断し、原告にその説明と勧誘をするために原告宅に電話をかけたが、原告が不在であったので、電話口に出たとみ子に対し、その旨伝えたところ、とみ子から、原告口座のことについてはとみ子に連絡すればよいと言われたので、被告吉岡は、原告宅を訪問してとみ子に右乗り換えの説明と勧誘をしたところ、とみ子は、ベアボンドオープン投資信託五〇〇〇口を売却し、右売却代金でニューステージ投資信託を購入することを承諾した。

そこで、被告吉岡は、原告口座において、同年九月一九日、右ベアボンドオープン投資信託五〇〇〇口を売却し、同月二〇日、ニューステージ投資信託四七六〇口(一口一万円)を購入した。

被告吉岡は、とみ子に対し、同年九月二〇日ころ、原告宅において、達之助口座の運用に関する委任状(乙一一〇)の受け渡しをする際、達之助口座の資産のほとんどが原告口座に移動されていたことから、原告の妹であり達之助の相続人である真後美園(以下「美園」という。)に達之介の財産を分けなくてもよいのかと聞いたところ、とみ子は、被告吉岡に対し、美園には別の財産を与えているのでかまわないと答えた。

とみ子は、原告が本件口座において取引を開始するまでの間、被告吉岡と協議しながら、原告口座において投資信託や債券等の取引を行っていたほか、達之助が渋谷支店に開設したとみ子名義の取引口座においても投資信託等の取引を行っていた。

2  原告による本件口座における取引の開始

(一) 原告は、平成八年四月二二日、渋谷支店を訪れ、被告吉岡と浜野勝志営業課長(以下「浜野」という。)に面会し、本件口座において、投資信託などのほか株式の取引を行うことを了承し、その際、被告吉岡が原告に対し、原告への連絡方法について尋ねると、原告自身が不在であっても、同居している母とみ子がほとんど在宅しているので、連絡は基本的に原告宅にするよう依頼した。なお、本件取引に使用する印鑑は、原告宅のたんすの引き出しに保管されていて、とみ子は右保管場所を知っており、原告も右印鑑をとみ子が使用することを許諾していた。

原告は、大学院時代に研究者仲間からの誘いで株式投資に共同出資した経験を有していた(このときは元本割れが生じ、利益は発生しなかった。)ほかには、本件取引まで株式取引の経験はなかったものの、転換社債、投資信託、株式がどのような商品であるかは熟知し、株式の現物取引と信用取引の仕組みについても理解していた。

(二) 被告吉岡は、平成八年四月二三日、原告宅へ電話をかけたところ、原告は不在であったが、電話口に出たとみ子に対し、原告に株式投資の勧誘をしたい旨を伝えた上、株価上昇の見込みのあったオリジン電気株や日本発条株の購入を勧めたいと言った。とみ子は、被告吉岡に対し、購入するように指示するとともに、被告吉岡に連絡を入れるよう原告に伝えておくと答えた。

(三) 原告は、平成八年四月二四日、渋谷支店に電話をかけ、被告吉岡に対し、オリジン電気株と日本発条株の購入を了承し、同日、本件口座において、ニューステージ投資信託四七六〇口が一口一万〇〇九三円で売却され(売却による原告口座への入金額は四七九五万四一四四円。この売却代金が、同日以後の本件口座における取引資金として利用されることになる。)、オリジン電気株一万六〇〇〇株、日本発条株二万株が購入された。

右取引を初めとして、平成八年一〇月一日(別紙取引一覧表記載の一四八番の日本テレビ放送網の信用取引は、同日行われた。)までの間、本件口座において、本件取引が行われた。

なお、原告は、本件取引開始当時、達之助からの相続財産のほかに自己固有の資産として六、七千万円の財産を有していた。

(四) 被告吉岡は、原告が多忙であり、直接連絡を取ることができないことが多かったことから、原告から指示されたとおり、基本的には、とみ子と連絡をとり協議しながら、本件口座における取引を行っていたが、原告自身と直接連絡をとり、取引銘柄を決めることもあり、また、預り証等本件取引に関する書類の受け渡しのために原告宅を訪れた際、在宅している原告に顔を合わせることもあった。

取引銘柄は、主に被告吉岡ととみ子との協議により決定されていたが、とみ子は、被告吉岡から長崎屋株と第一家庭電器株の購入を勧められた際、長崎屋株については了承したものの、第一家庭電器株については断わるなど、とみ子は、被告吉岡から取引の勧誘を受けても、嫌なら嫌と断ったり、また、息子と相談してみると言ったりしていた。

とみ子は、被告吉岡と電話で取引銘柄を決定したとき又は被告吉岡から約定が成立したという報告を受けたときには、取引銘柄等を記載したメモを原告に渡したり、口頭で報告するなどして、原告に本件口座における取引内容を知らせており、原告は、とみ子からの右報告や被告会社から郵送されてきた売買報告書を見ることにより、本件口座における取引内容を把握していた。

原告は、平成八年五、六月ころは、多忙であったことから、証券の取引関係書類の管理をとみ子に任せていたが、同年七月以降、右関係書類を自ら管理し、被告会社から郵送されてくる売買報告書も逐一確認するようになった。

同年六月ころ、被告吉岡が預り証等本件口座の取引関係書類の交換のために原告宅を訪れた際、とみ子が、被告吉岡に対し、とみ子名義の取引口座についての取引関係書類も差し出すべきか尋ねたところ、被告吉岡は、本件口座の分についてのみ提出するように求めた。

3  信用取引口座の開設と信用取引の開始

(一) 被告吉岡は、平成八年六月上旬ころ、原告に対し、被告会社で新規に開発された「アドバンスあーびー」の取引(信用取引の方法により、売買両建てで各二〇銘柄程度、合計四〇銘柄程度の株式取引を同時に行う取引。以下この取引を「あーびー取引」という。)を勧誘するため、あーびー取引について説明したパンフレットと信用取引説明書(以下、合わせて「パンフレット等」という。)を持参して原告宅を訪れたが、原告が不在であったことから、とみ子に対し、持参した右パンフレット等を交付して原告に渡すように依頼した。

(二) 原告は、被告吉岡からとみ子が受け取ったパンフレット等に自ら目を通し、あーびー取引の内容について検討した上、平成八年六月一七日、右パンフレット等を持参して渋谷支店を訪れ、浜野と被告吉岡に面会した。

原告は、被告吉岡らから、あーびー取引のパンフレットを示されながら、あーびー取引の仕組みやリスクについて説明を受けた上、あーびー取引を開始することとし、信用取引口座設定約諾書等に署名押印し、本件信用取引口座を開設した。その際、被告吉岡は、原告に対し、原告から勤務先の大学の研究室の連絡先が記載された名刺をもらっていたことから、右研究室にも連絡をとってよいか尋ねたところ、原告は、これを了承し、講義などで研究室を空けていることが多いので、研究室に連絡がつかないときには、自宅の母とみ子に連絡するよう指示した。

(三) 平成八年六月一八日、本件信用取引口座において、別紙取引一覧表記載のうち五六から七五まで(買付け)、一二三、一二五ないし一四二、一四五、一四六(以上売付け)の売買各二〇銘柄、合計四〇銘柄の株式の信用取引が行われた。

(四) あーびー取引開始後、被告吉岡は、原告に対し、アドバンスあーびー注文用紙に基づき、組み入れ銘柄について説明し、後日、原告宅を訪問して原告と面接した際、原告は、取引明細書にあーびー取引分について印を付けて他の信用取引と区別して取引内容を把握していた。

4  損失の発生等

(一) 原告は、平成八年八月ころになると、勤務先である大学の授業が夏休みになり、時間的な余裕もできたことから、とみ子に任せていた平成八年六月ころまでの原告口座における取引の内容も含め、取引関係書類を整理して原告口座の損益状況を試算してみたところ、およそ一〇〇〇万円から二〇〇〇万円ぐらいの損失が発生していることに気づいた。

(二) 原告は、あーびー取引開始以来、被告会社から原告宅に送付されてくる月次報告書によって、あーびー取引の評価損が月ごとに拡大していたことを知っており、被告吉岡から、平成八年八月末ころ、あーびー取引の取引銘柄について、売り銘柄の株価が上昇し、買い銘柄の株価が下落する動きが進行しているとの報告を受けたことから、被告吉岡に対し、個別銘柄ごとに決済したいとの原告の意向を伝えて被告会社の了承を得た上、現状で利益が出る銘柄や損失が比較的少ない銘柄を中心に、個別的に処分することとし、その旨被告吉岡に指示した。

(三) 原告は、平成八年九月、被告吉岡に対し、原告口座の取引記録を持参するように求め、右取引記録に基づき過去一年間の原告口座の取引内容を調べたところ、約三〇〇〇万円以上の損失が発生していることが判明し、同年一〇月三日、被告吉岡に電話をかけ、損失の発生について被告吉岡を叱責するとともに、本件取引の殆どを被告吉岡が無断で行った旨の主張をしたが、原告口座における個々の取引が無断で行われたなど個別の取引内容について異議を述べることはなかった。

5  担保同意書の作成と取引確認書への署名押印

(一) 原告は、平成八年六月から同年九月までの間合計六回にわたり、本件口座において現物取引をした株式について、信用取引のための委託保証金代用有価証券として担保に差し入れるため、原告宅においてあるいは渋谷支店に自ら赴き、担保同意書の内容を確認して署名押印した上、被告吉岡にこれを交付した。

(二) 原告は、平成八年七月から同年九月までの間合計四回(それぞれ平成八年七月八日付け、同年八月一日付け、同月八日付け、同年九月九日付け)にわたり、原告口座における取引明細や残高内容等を確認するための残高明細書について、その内容を精査し、問題がないと確認した上で署名押印した。原告は、平成八年九月九日付け回答書を作成するころ、被告吉岡に対し、同被告の投資に関する方針が見えてこないということについて苦情を述べたことはあったものの、それ以外に、原告口座において行われた取引について無断取引を理由とする異議を述べることなどはなかった。

(三) なお、原告は、乙第四九号証(入札申込書)は原告が作成したものではない旨供述するが、後記三1(三)で認定した事実によれば、原告は、とみ子に対し、本件取引に関する代理権(署名の代行を含む。)を与えていたと認められるところ、右乙第四九号証は、とみ子が、被告吉岡に原告の署名をするよう指示した上、原告から使用することを許諾されていた原告の印鑑で自ら押印したのである(右認定事実、被告吉岡)から、原告の代理人であるとみ子の意思に基づいて作成されたものと認められ、しかも、原告は、右乙第四九号証に係る株式(武富士三〇〇株)の取引について記載された残高明細書(乙一二八)の内容を精査し、問題がないと確認した上で、平成八年九月九日付け回答書(乙一二九)に署名押印しているのである(右(二))。

二  本件取引が過当取引であるか否かについて

1  前記認定事実のとおり、原告は、東京大学大学院経済学研究科博士課程を修了した後、東京経済大学経営学部の助教授として教鞭をとっているのであり、転換社債、投資信託、株式がどのような商品であるかは熟知し、現物取引と信用取引の仕組みについても理解しており、少なくとも一般投資家以上の知識を有していたと認められる。

2  また、原告は、達之助からの相続を契機として、達之助が開設した原告口座を引き継ぐ形で株式等の取引を開始したが、取引資金も達之助から相続した財産であって、原告固有の資産を追加投資しておらず、本件取引が相続財産の範囲内で行われていること、原告は、達之助から本件口座の資産も含め約一億円の資産を相続し、原告自身も相続当時、六、七千万円の財産を保有していたことからすれば、本件取引は原告の余裕資金によって行われたものということができる。

3  さらに、原告は、大学院時代に株式投資に共同出資し、元本割れした経験があり、株式取引が必ずしももうからないものであるという意識を有していたと考えられるのに、原告自らが、渋谷支店を訪れ、本件口座において、株式取引を開始することを了承して株式取引を開始し、次いで信用取引口座を開設して、達之助が行っていなかった株式の信用取引を開始していること、原告は、本件口座において行われた取引について、とみ子からの報告及び被告会社から郵送されてくる売買報告書によりその内容を把握していただけでなく、平成八年八月から九月までの間、合計四回にわたり、被告会社から交付された取引明細書や取引残高確認書の内容を精査し、本件口座における取引内容について間違いのないことを確認していること、同年六月から九月までの間、合計六回にわたり、現物取引をした株式を信用取引のための委託証拠金代用有価証券として担保に差し入れることに同意していることなどからすれば、原告が達之助と同様の投資信託等を中心とした運用を希望していたと認めることはできない。

4  右の諸事情によれば、本件取引が原告口座の目的、性格、原告の資産、能力等に照らして、過当であるとか適合性の原則に反するとかいうことはできない。したがって、本件取引は、過当取引であるとは認められず、違法な取引であるということはできない。

三  なお、原告は、本件取引が過当であるか否かを判断する基準として、口座支配性及び口座担当者の故意・過失も挙げ、本件においてはこれらの要件を満たしていると主張するので、これらの点についてさらに判断することとする。

1  口座支配性について

(一) 原告は、本件取引の大部分は原告の事前の承諾を得ることなく被告吉岡が無断で行ったものであり、とみ子には、投資の経験が全くなく、原告を代理して証券取引についての投資判断を行うことはあり得ず、それどころか、被告吉岡は、とみ子に対する勧誘行為自体を行わず、原告の信頼ととみ子の無知に乗じて本件取引を行ったものであり、また、被告吉岡の主導によって原告の投資目的に反する取引が多数行われ、不必要な信用取引や短期反復取引が行われており、被告吉岡による口座支配性が認められると主張する。

(二) しかし、前記一で認定した事実によれば、とみ子は、被告吉岡から取引の勧誘を受けても、その銘柄が嫌な場合にはこれを断ったり、息子と相談してみると言ったりして、明確な対応をしており、実際に、被告吉岡から購入を勧誘された株式の購入を断ったこともあること、とみ子は、平成八年六月ころ、被告吉岡が預り証等の取引関係書類の交換のため原告宅を訪れた際、とみ子名義の取引口座と本件口座を明確に区別して把握しており、右預り証等の交換により、本件口座において株式取引が行われていたことを認識していたこと、とみ子は、被告吉岡と電話で取引銘柄を決定し又は被告吉岡から約定が成立したとの報告を受けた際、原告にメモを渡したり口頭で伝えるなどしてその取引内容を報告していたこと、とみ子は、達之助口座における株式等の売却処分とその代金の本件口座への入金について被告吉岡に指示していること、達之助が開設して取引を行っていたとみ子名義の取引口座において、とみ子自身が達之助死亡後も投資信託の取引を行っていたことが認められるのであって、これらの各事実によれば、とみ子には株式投資に関する十分な判断能力があり、また、被告吉岡は、とみ子に対し、本件取引につき勧誘行為をしたことを認めることができる。

(三) また、前記一で認定した事実、とりわけ、原告が、被告吉岡に対し、原告への連絡方法として、自宅にいる母とみ子に連絡するように指示しており、とみ子も原告口座の取引については自分に連絡すればいいと言っていること、原告は、とみ子から、メモや口頭で取引内容の報告を受け、本件口座において取引が行われていることを知りながら何ら異議を述べていないこと、原告は、原告方に郵送される売買報告書により、本件口座において行われた取引内容を把握していたこと、本件取引に使用する印鑑については原告がとみ子に使用を許諾していたことなどの各事実を総合すれば、原告は、とみ子に対し、本件口座で株式の売買等の取引を行うことにつき代理権を与えていたと認めることができる。

(四) さらに、前記一で認定した取引経過に照らして考えると、本件取引の大部分が、被告吉岡によって無断で行われ、原告が事後的に同意したに過ぎなかったとは到底認めることができない。

(五) また、原告は、本件口座において、株式取引を開始することを自ら了承して、株式取引を開始し、本件取引の内容についても株式を中心とする運用をしていることを了知していたこと、次いで原告は、自ら信用取引口座を開設し、達之助が行っていなかった株式の信用取引を開始していること、原告は、あーびー取引以外にも株式の信用取引を行い、あーびー取引と他の信用取引を区別して把握していたこと、原告は、原告口座における取引内容を把握しており、約三〇〇〇万円の損失があると分かるまでは本件取引について無断取引であるなどとの異議を述べていないことなど前記一で認定した各事実に照らすと、原告口座において原告の投資目的に反する取引が多数行われ、不必要な信用取引や回転取引が行われたとも認めることはできない。

(六) 以上のとおり、原告口座における本件取引が被告吉岡により主導的に行われ、被告吉岡が原告口座を支配していたとは認めることができず、この点に関する原告の主張も理由がない。右認定に反するとみ子の証言及び原告本人の供述はいずれも前記認定事実及び証拠に照らし採用することができない。

(七) なお、原告は、あーびー取引の勧誘それ自体が詐欺的であったと主張するが、あーびー取引のパンフレット(乙四六)には、留意事項として、「必ず利益が得られ、損失が生じないというものではない」旨が具体的理由を付して明記されているところ、前記一3で認定したとおり、原告は、右パンフレットを自ら十分検討し、被告吉岡から説明も受けて、あーびー取引の仕組みやリスクを十分に理解した上であーびー取引を開始していること、原告本人も損失の発生する可能性を認識していた旨供述していることに照らすと、被告吉岡のしたあーびー取引の勧誘が詐欺的であったとは認めることはできない。なお、原告は、右パンフレットに、売りと買いの銘柄群(ポートフォリオ)を同時に解消するようにとの記載があるにもかかわらず、本件取引で実際に行われたあーびー取引の解消は、銘柄ごとに個別に行われたので、事前の説明と異なることをも問題とするが、パンフレットの右記載は、あーびー取引の一般的な解消方法を述べたものであって、顧客の判断により銘柄ごとに個別に解消することができないものではなく、現に、本件取引においては、顧客である原告において、損失を少なくするために、その判断により銘柄ごとに個別の解消をしたのである(前記一4(二))から、パンフレットの右記載や被告吉岡のした説明をもって、違法な勧誘であるということはできない。

2  口座担当者の故意、過失について

(一) 原告は、被告吉岡は、手数料稼ぎを目的として、原告の利益を無謀に無視して、原告を本件取引に誘致したものであり、前記の損害発生について、未必の故意、過失があると主張する。

(二) しかしながら、被告吉岡は、本件取引当時、原告について特に他の顧客と異なる内容の取引を勧めていたと認めるに足りる証拠はないこと、本件取引当時、日経平均株価は二万円台から二万二千円台の間で株価が上下する値動きをしており、被告吉岡は、右相場の状況と会社四季報の情報等に基づき、原告に対して取引銘柄の種類や売買時期を勧誘していたこと(乙一三七、被告吉岡)、各銘柄を勧めた理由について特段不合理な点も認められないことなどの各事実に照らすと、被告吉岡が手数料稼ぎを目的として、原告の利益を無視して、原告を本件取引に誘致したとは認めることができない。

したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。

四  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下田文男 裁判官 田代雅彦 裁判官 岩崎慎)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!